【KOBASHIグループ】知識製造業へのシフトがもたらす地域中小企業の進化/100年企業でありながらスタートアップのように事業を創る(社長×次世代対談)

2024.03.11

1910年創業の農業機械メーカー・小橋工業を母体とする岡山のKOBASHIグループ。その4代目である小橋正次郎氏は、2016年の社長就任以来、株式会社ユーグレナとの資本業務提携、ベンチャーキャピタルであるリアルテックファンドへの参画、スタートアップのモノづくりを支援する子会社KOBASHI ROBOTICSの設立など、地域中小企業のイメージを塗り替えるような動きを仕掛け続けている。その視野には、どのような未来が映っているのだろうか。リバネスの次世代社員であるモルティング ジェネレーター・立崎乃衣との対談を通じて、新時代に挑むKOBASHIのビジョンに迫る。

→KOBASHIグループ「生え抜き社員対談」はこちら
→KOBASHIグループ「中途社員鼎談」はこちら


KOBASHI HOLDINGS株式会社 代表取締役社長 小橋正次郎氏
1982年岡山県生まれ。1910年の創業以来、農業機械メーカーとして、農業の機械化を推進。2017年KOBASHIグループ再編によりKOBASHI HOLDINGS株式会社を設立し、同社代表取締役社長に就任。「地球を耕す」を理念に掲げ、100年以上にわたって培ってきた知識や技術を応用し、地球規模の課題解決に取り組む。また、2020年KOBASHI ROBOTICS株式会社を設立し、スタートアップのモノづくりを包括的に支援する「Manufacturing Booster」を開始。地球上の課題を解決する技術の一日でも早い社会実装を目指す。

株式会社リバネス モルティング ジェネレーター 立崎乃衣
2004年生まれ。孫正義育英財団5期生。小学3年からロボット製作を開始。2017年より、アメリカの国際ロボコンFRCに出場するチーム「SAKURA Tempesta」に所属しロボットの設計を担当。同年よりチームで6年連続受賞、世界大会出場権を4度獲得、2022年には個人賞 Dean's List Finalist Award を受賞。2020年4月にFace Shield Japanを立ち上げ、自作のフェイスシールド2200個以上を全国の医療機関に寄付。2022年、Forbes JAPAN主催の30 UNDER 30「日本発 世界を変える30歳未満30人」に選出。高校卒業後ギャップイヤーを取得し、株式会社リバネス モルティング ジェネレーターに就任。

入社の時から感じている強烈な「危機感」が事業を創る

小橋 立崎さんと初めてお会いしたのは、2023年6月に開催されたリバネスの21周年記念パーティーでした。海外からのゲストも多数いる中で、英語で堂々とスピーチする姿に感銘を受けました。現在は高校卒業後のギャップイヤーを活用してリバネスで働いているとのことですが、そもそもの接点は何だったのでしょうか。

立崎 私は幼少期からホームセンターでネジとナットを買ってもらって喜ぶような子どもでした。5歳頃に電子工作でラジオなどをつくり始め、9歳のときに見様見真似で手を動かしていたらロボットをつくれたことが嬉しくて、ロボット開発に夢中に。そして11歳の誕生日プレゼントでリバネスのロボティクスラボに通い始めて、先生役のリバネス社員が私の「師」になりました。そこから、リバネス主催の中高生の学会・サイエンスキャッスルに誘ってもらったり、個人的な活動も応援してもらったり、という経緯で今に至ります。

小橋 なるほど。リバネスに育成された次世代が、育成してもらった会社に入社するという大きなサイクルがつながったわけですね。

立崎 はい。そして入社後に「森林と人の自律社会システムを実現する」を掲げるリバネス・フォレスト・プロジェクトで、KOBASHI ROBOTICSとも仕事をすることができました。

小橋 そうですね。リバネスと共同開発した植林用播種ドローンで、樹木の種子を土壌で包んだ「シードボール」を地面に落下させる装置を設計してもらいました。

KOBASHI ROBOTICSとリバネスが共同開発した植林用播種ドローン

立崎 ずっとお聞きしたかったのですが、もともと農業機械のメーカーであるKOBASHIが、なぜドローン開発などの新規事業に積極的に取り組んでいるのでしょうか。

小橋 「危機感」に尽きますね。少し時間をさかのぼりますが、私は2008年に26歳で小橋工業に入社しました。当社は1910年創業ですから、その時点ですでに約100年企業で、父が3代目の社長を務めていました。つまり小橋工業は老舗のファミリー企業で、入社の時点で私は家業を継ぐ覚悟を決めていました。

立崎 26歳!いまの私とあまり変わらない年齢で大きな決心をされたのですね。

小橋 そのときに父から「小橋工業は本当に良い会社だ」と言われたのですが、完全に鵜吞みにはできませんでした。確かに財務の健全性や事業の収益性は高い。一方で、当時のお客様は100%農家さんであり、日本の農業従事者は大幅な減少傾向が続いていて、高齢化も深刻でした。現実のデータを分析し、考えれば考えるほど、将来には明るい要素を見出せなかった。つまり、バトンを渡す父とバトンを受ける私では見ている時間軸が違っていて、だから父と完全に同じ気持ちにはなれなかったわけです。

立崎 それで、「今のままではダメだ」という強い危機感が……。

小橋 おっしゃる通りです。国内の農家さんだけを相手にして、農業機械だけを売るビジネスでは、未来永劫続く会社にはなり得ないな、と。ではどうするか。農業全体が縮小傾向の中で、農家さんの所得を上げなければ、私たちの本業である農業機械に回るお金も生まれません。であれば、根本的には農家さんの所得を上げることから考える必要があります。それを担うのが小橋工業の新規事業であるべきだ、という答えにたどり着いたんです。2017年に資本業務提携したユーグレナとの取り組みはその代表例ですね。休耕田でバイオジェット燃料になりうる微細藻類を培養することができれば、農家さんの新たな収入源になりますから。

2017年、株式会社ユーグレナと業務資本提携。あぜ塗り技術を応用して建設された世界初のあぜ型微細藻類培養プールの稼働を開始

その経営理念に人生を賭ける価値はあるか

立崎 2019年に経営理念を「地球を耕す」に再定義されています。この言葉を見たときに、とにかく「かっこいい!」と感じました。私はロボティクスが好きでずっと取り組んできたのですが、一方で「自分がやっていることは地球や生命とは離れたものだ」という意識もありました。でも、「地球を耕す」というキーワードであれば、自分にも居場所があると感じられたんです。どうやってこの理念にたどり着いたのでしょうか。

小橋 2016年の社長就任時に、父から「伝えるべきことは全て伝えた。己を信じて存分にやれ」と言ってもらいました。それは、KOBASHIの100年の歴史がすべて私に託されたということでもあります。そのうえで、自分が人生を賭けてやり続けたいことは何か。次の100年をつくるために必要なことは何か、と考えたんです。そしてたどり着いたのが、「地球を耕す」という理念です。これまで小橋工業は「農地」を耕してきました。これからは「地球」という規模感で捉えて、人類の課題を解決に導いていく会社であろうと決めました。

従来の理念「農家の手作業を機械に置き換える」を2019年に再定義した

立崎 自分の人生を賭けた理念……。すごいです。

小橋 私にとって会社と人生はイコールですから。ただ、「地球を耕す」という言葉に決めるまでには3年かかりました。比較的早い段階でこの言葉にたどり着いたのですが、決め切ることができなかった。それで、どこに行くときにも「この言葉を持っていく」という感覚で、いろいろな地域、いろいろなシチュエーション、いろいろな相手に対して、常にこの言葉を発信し続けました。その結果、「やっぱりこれだ」「どう考えてもこの言葉しかない」と確信できたのが3年後だったわけです。自分の人生の最期には、「地球を耕した」と言って終わりたいと本気で思っています。

立崎 リバネスの行動規範の一つに「どんなときもプレゼンテーション」というものがあります。それで私も、誰に会うときにも常に自分の夢を語るようにしているのですが、少しずつその言葉が明確になってきているのを感じています。それと似た感覚でしょうか。

小橋 まさに。また、会社の理念は決めただけでは意味がありません。組織の隅々まで浸透し、無意識に行動できるレベルまで落とし込むことが重要だと考えています。私一人の力では「地球を耕す」を実現することはできないので、仲間を集める必要があります。昔話の桃太郎でも、「鬼退治」という共通の目的のもとで仲間が結成されました。それと同様に「地球を耕す」という志に共鳴し、人類と地球の課題に対して共に挑戦する。今の当社にはそんな仲間が集まりつつあります。

確固たる理念と中長期の戦略で自分たちの意志を貫く

小橋 立崎さんの夢もぜひ聞かせてください。

立崎 以前から「宇宙でロボコンをやりたい」と思っていたのですが、数ヶ月前に「2050年の宇宙の暮らし」がテーマのワークショップに参加した際に、考えがより深まりました。例えば、ロボットを「宇宙に運ぶ」よりも「宇宙でつくる」ほうが効率的です。そのためには「組み立てを担うロボット」も必要で、「宇宙で使いやすい部品の規格とは」を考える必要もあります。現時点では「あらゆるものづくりのプロセスを自動化したい」が私の目標になっています。これが実現できれば、「宇宙のロボコン」もさることながら、「すべての人が自由にものづくりができる世界」が生まれるはずです。

小橋 それは面白いですね ! KOBASHIとしてもぜひ一緒に取り組みたいです。

立崎 はい!きっと「地球を耕す」にも貢献できるプロジェクトになるはずです。

小橋 理念さえ共有できれば、お互いの役割が何であれ一緒にやっていくことができますね。共同プロジェクトが実現した際には、多少のリクエストはすると思いますが、それは仲間として「こうすればもっと良くならない?」という話であって、何をしてもらうかをこちらが決めたいわけではありません。これはKOBASHIの採用の基本的な考え方でもあります。理念を共有できているのなら、その先はそれぞれの多様性を発揮してもらうほうが効果的ですから。

立崎 素敵ですね。

小橋 その意味でも、「未解決の課題を解決するために、お互いの知識を組み合わせて新たな知識をつくりだす」というリバネスの知識製造業の概念に非常に共感しており、社会全体にも広がっていくべきだと思います。しかし同時に、いまの社会はまだその状況にはないとも感じています。そうした環境下において、「KOBASHIだからこそ」の独自性を示し、成功モデルとなることで社会全体に広がるきっかけになれば、と考えています。そのため、ホールディングス経営によって既存事業で創出された経営資源をグループ内で循環させ、新たな事業を創っていくという、まさにグループ内知識製造業をやっています。また、非上場でいることで短期の収益にとらわれず、ファミリーの価値観でもある中長期の目線で事業を継続できます。「儲かりそうにないけど、社会に必要な事業」をどのように実現するか。解の一つが地方のファミリー企業にあると思っています。

立崎 「中長期で何を実現するか」という話とも共通すると思うのですが、私たちの世代の感覚では、「地球のために」という姿勢はとても自然です。人間だけの地球ではないし、将来の自分の能力は「地球を少しでも良いサイクルで回せるように使いたい」という思いがあります。

小橋 子どもの頃の遠足で「来たときよりもきれいにして帰りましょうね」という話を先生がしてくれたじゃないですか。私にとって「地球のために」というのはそれと同じで、「自分が生まれたときよりも美しい地球を次世代に受け継ぐ」という感覚なんです。すべての会社が長期視点に立つべきだと考えているわけではありませんが、少なくとも私たちのようなファミリー企業にとっては、親和性の高い考え方だと思います。

立崎 では最後に、そんなKOBASHIがこれからどのような未来をつくろうとしているのかを教えてください。

小橋 「地球を耕す」を実現していきます。しかし、KOBASHIだけでは不可能です。理念を語り続けることで社内だけでなく社外からも多くの仲間を集めて、一緒に実現していきたいと考えています。また「KOBASHIにできるならうちもできる」という中小企業が次々に生まれることで、中小企業経営が注目され、日本経済の底上げに寄与できればという思いもあります。そういう中小企業が増えていけば、きっと未来は明るいはずです。

立崎 まさに「知識製造業の新時代」ですね。私もその一員になりたいです。

小橋 もちろんです。一緒に未来をつくっていきましょう!