【KOBASHIグループ】知識製造業へのシフトがもたらす地域中小企業の進化/理念、スピード、歴史と新しさの融合。「ものの見方」が完全に変わった(生え抜き社員対談)

2024.03.11

組織変革にトップの決断は不可欠だ。しかし同様に、現場を動かす社員の力がなければ、組織が実際に変わることはありえない。1910年創業の農業機械メーカー・小橋工業を母体とする岡山のKOBASHIグループは、4代目である小橋正次郎氏が2016年に社長に就任して以来、地域中小企業のイメージを塗り替えるような数々の動きを仕掛け続けている。ではKOBASHIの社員は、自社のシフトをどう捉え、どう行動し、結果的にどう変わったのか。変革の最前線で活躍する2人の生え抜き社員が、率直な思いを語り合った。

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小橋工業株式会社開発部 執行役員 中谷公紀 氏
2000年小橋工業株式会社に新卒入社し、エンジニアとして耕耘爪やロータリーなどの農業機械の新商品を多数開発。2018年に東京研究所に参加し、その後、KOBASHI HOLDINGS株式会社 社長室 所長を務める。2020年にKOBASHI ROBOTICS株式会社の立ち上げに参画し、その後、モノづくり支援部 部長を務める。2022年小橋工業 開発部 執行役員に就任し、農業機械の新商品開発に従事。

KOBASHI ROBOTICS株式会社 知識製造部 スペシャリスト 池田幸治氏
1998年小橋工業株式会社に新卒入社し、エンジニアとして農業業界初の技術を多数開発。オートマチック畦塗機などの作業機、野菜収穫機、音声ガイド付き無線リモコンなどの製品企画・概念実証・量産開発・量産・販売サポートを経験。発明表彰受賞経験もあり。2018年に東京研究所に参加し、その後現職であるKOBASHI ROBOTICS株式会社 知識製造部 スペシャリストに就任。要素技術開発、量産設計、コストダウン、組立などのスタートアップ支援業務に従事。

日々のあらゆる行動が「地球を耕す」に紐づいている

池田 私と中谷さんは数年違いの新卒入社で、現時点で勤続20年超。ずっと開発部で設計担当というキャリアも共通しています。2018年に開設された研究開発拠点である東京研究所(リバネスが運営するインキュベーション施設・センターオブガレージに開設。世界のモノづくりスタートアップや全国の町工場と連携しながら、農業を取り巻く課題解決に取り組んだ)に配属され、従来の小橋工業とは異なる「ゼロイチ」のものづくりに一緒に挑戦した間柄でもあります。

中谷 2人とも2020年に設立されたKOBASHI ROBOTICS株式会社(以下、ROBOTICS。KOBASHIがメーカーとして培ってきたノウハウ・リソースにより、試作開発から量産・メンテナンスまで、モノづくりの各プロセスを包括的に支援する次世代型モノづくりプラットフォームサービスを展開している)の立ち上げメンバーでもありますね。その後、池田さんはそのままROBITICSに残り、私は開発部に戻りました。

池田 お互い、この数年は本当に目まぐるしい変化を経験してきましたよね。

中谷 以前の自分とは別人になった気がします。がむしゃらに走り続けて「気がついたら変わっていた」という感覚です。

池田 全く同じです。あえて一つきっかけを挙げるとすれば、やはり今の社長が就任したこと。「歴史を守ることも大事だが、未来のためには変わっていかなければならない」という強いメッセージが、会社全体に浸透してきています。

中谷 その象徴が「地球を耕す」の理念です。再定義される前の「農家の手作業を機械に置き換える」は業務内容と直結した言葉だったこともあり、その意味を深く考えることは実はあまりなかったんです。ところが今の理念に変わってからは、何をするときにも繰り返し考えるようになりました。というのも、「地球を耕す」という理念の重要性は理解できても、それを具体的な業務に落とし込むことは本当に難しくて、明確な答えがあるわけでもないですから。今では常に「このプロジェクトは『地球を耕す』ことができているのか」と自問するようになりました。

池田 私も日々の行動が、自然と理念に引っ張られています。例えば何か情報を探すときにも、無意識に「これは地球の課題解決につながるだろうか」という視点になっていますから。再定義された理念によって自分の行動が変わり、視野が広がっている感覚があります。

中谷 そうですね。いろいろな解釈ができる言葉なので、「こういうことかな」と腑に落ちるまでに時間はかかりましたが、確実に視点の持ち方が変わりました。それは会社全体にも言えると思います。その証拠に、業界団体の会合で他の企業の方と接すると「ああ、以前はこうだったな」「農業のことは考えていたけど、地球のことまでは考えていなかったな」という気持ちになるんですよ。

池田 わかる気がします。決して以前が間違っていたわけではないのですが。

中谷 理念が変わったことで視点が変わり、東京研究所やROBOTICSでの経験を通じて仕事に向き合うスタンスが変わり、日常的に接する相手にスタートアップが加わるようになった。そうやって少しずつ視野が広がっていった結果、気づいたときには以前とは全く違う「ものの見方」をするようになりました。人によって程度の差はあれ、今のKOBASHIでは全社員に同じことが起きています。社名も事業も基本的には以前と同じなので、外からはあまり変わっていないように見えるかもしれませんが、実際には全社員の考え方が変わっているわけですから。以前とは完全に別の会社になっていますね。

課題をゼロから探索する姿勢をもう一度取り戻す

中谷 理念の再定義もさることながら、強烈に印象に残っているのはやはり東京研究所です。リバネスの協力を得ながら、モノづくりスタートアップとの連携も含めて全力で「ゼロからイチをつくりあげる」プロジェクトに取り組んだ数年間でした。

池田 明確に違ったのは、なんといってもスピード感。それまでは「しっかり考えを固めてから開発を進める」という感覚でしたが、東京研究所で求められたのは「やりながら考える、とにかくつくる、できるだけ早く回転させる」ということ。本当に衝撃的でした。

中谷 スタートアップとの認識の違いにも驚きました。われわれからすれば「モノづくりは安全第一」が常識。一方で、スタートアップにとっては必ずしもそうではない。なぜなら、彼らはスピードが最優先されるフェーズにいるから。それは衝撃でもあり、新鮮な学びでもありました。自分たちに足りない部分も、また自分たちが長けている部分も、一度KOBASHIの外に出たからこそ多くの気づきを得ることができましたね

池田 これまでのヒット商品は、ユーザーの課題をゼロから探索するからこそ生まれてきたと感じています。かつてのKOBASHIにはそういう商品がいくつもあって、それが今のスタンダードになっている。次のヒット商品をつくるためには、やはりもう一度「課題をゼロから探索する」必要があると思っています。

1910年の創業から、KOBASHIは常に社会課題の解決を事業としてきた

中谷 そもそも開発や設計のプロセスは、特に初期のフェーズは「数をこなしてなんぼ」の側面があります。東京研究所とROBOTICSを経て、私が再び開発部を率いる立場になった際にまずやったのは、メンバーにも意識を変えてもらって、スピード感を理解してもらうことでした。ただ、外の世界の経験を通じて培った自分の感覚を、そのまま組織にストレートにぶつけるわけにはいきません。私とメンバーでは前提が違うことを意識しつつ、慎重にバランスをとりながら進めていきました。その結果、残念ながら変化についてこられない人がいたことも事実です。しかし、全体的には主体的に物事を考えられるメンバーがかなり増えてきた実感があります。

池田 逆に私が所属しているROBOTICSは、グループの中でも特に「地球を耕す」の新理念を具現化するための組織で、新しく入ってきた社員のほうが多い。彼らはこれまでの経験からKOBASHIを新しい形に変えたい思いが強いので、生え抜きの自分は完全に劣勢です(笑)。私もその思いは共有していますが、一方で、KOBASHIとしてこれまで培った強み、文化、仕組み、良いところもたくさんあります。それを守ったうえで、歴史と新しさの融合をしていくのが自分の役割かなと。良くも悪くも価値観の衝突は起こりますし、常に葛藤があるのも事実です。それでも、だからこそ生まれる新しい価値、そして新しい知識をつくっていきたいと思っています。

中谷 組織変革は「ただ変えればいい」という簡単なものではありませんよね。それでも、KOBASHIならできるという確信が私にはあります。先ほど「ゼロイチからスピード感を学んだ」という話をしましたが、従来も課題さえ明確なら動きは速かったんですよ。なにしろトライアンドエラーを高速で回す「モノづくりの力」を100年蓄積してきた会社ですから。そして今回も、「変わらなければ」という、ある意味では明確な課題がある。この解決に向けてスピード感を持って動くことはできるはずです。

池田 まさに。少し違う表現でいえば、団結力が非常にある。組織に横串を通すようなつながり、一体感、もしくは共通する志というか。そしてありがたいことに、社外の協力会社のみなさんも、それを理解したうえでついてきてくださっている。そこは本当に大きな強みだと私も思います。

中谷 はい、協力会社のみなさんも含めて、KOBASHIには強い一体感がありますよね。これからは「地球を耕す」という大きな課題に、一致団結して取り組んでいきましょう。

池田 ええ、やりましょう!